<R-18>先輩後輩黒ファイ/相川紅理






※この作品は性描写が含まれます、ご注意ください※


おっきなワンコの恋物語



「黒たん、やっほー!」
妙な渾名を呼んで、金髪の少年が黒髪の少年のそばによる。黒髪の少年、黒鋼は眉間に皺を寄せた。
刹那、白い手が黒鋼に触れようとするが、それ以上近づかない。
「道場には来るなって言っただろうが」
「えー。君の部活を見ないなんてもったいない」
金髪の少年がにこにこ笑って言う。それに、と彼は言った。
「オレ、君より年上の先輩なんだけど?敬語つかったことないじゃない」
「……どこが年上なんだか」
「ちょ、黒たんひどい!」
ぎゃんぎゃん叫ぶ彼に、黒鋼はため息をついた。
金髪の少年の名はファイと言う。一つ学年上の先輩だ。
「ちょっといいかな」
先輩だろうか。一人の少年が、声をかけてなにかファイと話している。ファイが黒鋼を振り返った。寂しげな笑顔は一瞬でいつもの笑顔に変わる。
「またあとでね、黒様」
ファイが手をふる。道場を後にする二人。
「黒鋼さん」
「どうした」
部活の後輩、小狼がそばによる。いつの間に着替えたのか道着に着替えていた。
「最近、ファイさんよく来てますね」
「変なのに懐かれただけだ。飽きるだろ」
「そうですか?……ファイさんの不穏な噂、聞きました?」
「噂?」
黒鋼が聞き返す。はい、と後輩の小狼は答えた。

聞いた内容は思わず怒鳴りたくなるような酷い内容のものだった。
「『援助交際』やら『セフレ』だの、噂話の好きな連中だな……」
はぁと部長の黒鋼はため息をつく。
頼めばやらせてくれるらしい。
しかし誰でもというわけではないらしい。
ファイは確かに中性的な体つきで、しなやかに筋肉がついている。そういう目で見ている奴らがいるということがやけに黒鋼を苛立たせた。
深く関わる気はない。
けれど、去り際の寂しげなファイの笑顔が気になった。初めて出逢った時にみたその表情と同じのそれ。
「……くそっ……!」
黒鋼は拳を壁に殴りつけた。




◇◇◇◇◇

黒鋼とファイが出会ったのは、入学式だ。式が終わり、部の勧誘の声が運動場に響く。
ここの高校にしたのは家から近いことと、中学の成績は優秀であったが、剣道の部活のためにここに決めた。
学校の裏に回り、ぶらぶらと剣道部の紙をもち黒鋼は歩いていた。
前方に誰かいる。男子生徒だろうか。風に吹かれ桜が舞う。金の髪がふわりとふかれた。気配を感じたのだろう、人物がこちらを振り向く。
「君、新入生?ここの桜綺麗だよね」
微笑んで言われ、しばらく見惚れてしまった。
「おう」
「そっかー。これからよろしくねー」
にっこり微笑まれる。
人物の名がファイで、彼が一つ学年上の先輩であることを知ったのは、数日後のことだった。


それからというもの。たびたびファイは黒鋼に会いに来た。自分のどこが気に入ったのか。怪訝な顔をしながらも、黒鋼はとりとめもない話をした。笑いながら、相槌をうちながらファイは聞いてくれた。聞き上手だな、と褒めると、ファイは照れていた。
「おまえ、友だちはいいのかよ」
「うーん。知世ちゃんは音楽の練習っていってたからなぁ」 大道寺知世。ファイと同学年らしい。二人は気が合うようで、黒鋼は度々見かけたことがある。知世と話したことがあり、「吹奏楽部に入ってますの」と彼女は言っていた。
その後、黒鋼と後輩のさくらや、黒鋼と二つ学年上の草薙と黒鋼は友人になり輪が広がった。
休みの日には、さくらや、ファイ、草薙、黒鋼、知世でお弁当交換会をしたこともある。始終和やかな日だった。


(……平穏だったのは、見せかけだけか)
高校からの帰途。歩みを止める。黒鋼は竹刀を触りながら考えていた。



◇◇◇◇◇

「黒たん、手を怪我したのー?」
昼休み。屋上で黒鋼が昼食をとっていたら、ファイが現れた。隣へと座る。
「おまえなんで、俺がいる場所わかんだよ」
「んー?さくらちゃんに聞いてー」
「……」
まだ黙っていてくれたほう平和だというのに。さくらは、黒鋼より一学年下だ。どこで知り合ったのか、彼女はファイと友達の仲らしい。
「黒たん、いつもサンドウィッチって栄養偏るよ?たまにはサラダとかもとった方がいいって」
「それ、そっくりそのまま返すぞ」
黒鋼が呆れて言う。ファイの弁当は極端でサラダと果物しか入っていない。そしてチョコレート。菓子の方が量が多い。
「なんで果物とサラダなんだよ。チョコレート多すぎだろ」
選択がおかしいだろう、と黒鋼が指摘するとファイが笑う。
「だって好物なんだもん」
「もんとか言うな」
ふふッとファイが笑う。なんだか直視できなくて「そうかよ」と黒鋼は言った。
「……だってさ、現実が辛いなら、こっちで甘いものとらなくちゃねー」
軽い調子で言われたそれ。聞き逃すことなどできなく、黒鋼はファイを見た。首筋の赤い痕に気づく。
「……おまえ、それ……」
ファイが黒鋼の言おうとしていることに気づき。手で隠した。明らかに動揺している。
「君には見られたくなかったなぁ」
痕はつけないでって言ったのに。小さく呟かれた声は肯定だった。
噂はやはり本当だった。殴られたような衝撃とともに、けれど腹立たしさも起こってきた。
黒鋼はファイの手を掴んだ。
「なに……?」
蒼い眼が黒鋼を見る。
始業のベルがなった。ファイが立ち上がる。黒鋼は手を離した。
「オレ、行くね」
またね、とも言われなかった。ファイの後ろ姿を黒鋼はしばらく見ていた。





◇◇◇◇◇


「黒鋼」
かけられた声に黒鋼は振り返った。長い黒髪のゆるやかなウェーブの少女、知世。隣には草薙が立っている。
「知世」
名前を呼ぶと、少女は顔をしかめる。
「先輩には敬語ですわよ?黒鋼」
「いいだろ」
「最初出会った時と貴方は変わりませんわね」
ふぅと知世が溜息をつく。
「いつもだな」
草薙が苦笑する。で?と黒鋼は聞いた。
「用はなんだ」
黒鋼は二人を見据える。いまいる場所は廊下。人通りすくない場所だ。
「単刀直入に言いますわ。覚悟がないなら、ファイさんに関わらないでくださいまし」
知世は淡々と告げた。
「……なんだそりゃ」
黒鋼は聞き返す。どういう意味だと問い返した。
「噂は知ってるんだろ?」
草薙が黒鋼に聞く。なんとなく察し、黒鋼は肯定した。
「……あれは寂しさの裏返しなんだ。俺は友人になってから一年しか接していないが」
「……時々不安なのだと仰られるのです。大事な人ができたらなくしてしまうのだと。どこか遠くへ行ってしまうんじゃないかと」
草薙と知世は眉を下げる。
「ユゥイさんがいなくなってからですわ」
知世に、草薙が頷く。
(ユゥイ?)
黒鋼は内心疑問符を浮かばせた。
「家族の方ですわ」
淡々と少女は話す。
「けれど、貴方と知り合ってから貴方のことばかりファイさん、お話しなさるようになりました。嬉しそうに」
知世と草薙は黒鋼を見る。
幸せそうだった。知世と草薙はようやくほっとした。やっと見つけたのかと思った。
しかし。時々ファイ沈んでいるのが気になった。
「貴方はファイさんのことをどう想っているのです?」
知世が黒鋼に強い調子で聞く。黒鋼は考えた後に口を開いた。





◇◇◇◇◇


あれから。黒鋼はファイに会っていない。
いや、出会えなかった。
だが、自分はファイに会って何がしたいのだろう。何か伝えなければ、と黒鋼の心ばかりが急く。
ある日の放課後。黒鋼は廊下から下の景色を見ていて下駄箱にいるファイに気づいた。部活のカバンを持ったまま無意識に足が動く。階段をかけおり、下駄箱へ黒鋼は走った。
「おい…!」
ファイが黒鋼を見て、目を丸くする。離れようとしたファイの手を黒鋼は掴んだ。
「……オレとシたいの?黒様」
言われた言葉に黒鋼は愕然とした。嫣然とファイが笑む。
こんなファイは黒鋼は知らない。まるで姿が同じで、別人のようだった。
「君とだったら相性もいいかなー。体もオレ好みだし」
こっち行こうか?とファイが歩き出す。やっとファイを捕まえたものの、黒鋼は何事か考えながらついていった。





◇◇◇◇◇

「……んっ…んんっ」
ズボンのファスナーをあけて、ファイが寝転がる黒鋼のを口に含んでいる。二人がいるのは体育倉庫だ。舌づかいが妙にたくみだった。赤い舌はなんども先端や根本からを舐めあげる。倒錯なそれは否が応にも興奮するには随分な材料だった。
「黒たんの、おっきいね……」
うっとりとした表情でファイが言う。ファイは下は何も身に着けていない。時々黒鋼のから口を離しては、指に唾液をつけて後ろを触っている。時折艶の声が漏れた。
「も、いいかな……」
「おい……!」
制止する間もなく。ファイは黒鋼に跨り、黒鋼のに指を添えた。ゆっくりと腰を下ろしていく。
「……っ、ぁ、」
苦しそうな声が黒鋼の耳に届いた。どんどんファイの中に入れられ、完全にファイは腰を落とす。
「はい……った?」
満足そうにファイは艶然と微笑んだ。
「黒たん」
ファイが黒鋼を呼ぶ。
「ごめんね……」
一筋の涙がファイの頬を伝った。
何の謝罪なのか。むしろ流れに流されたのは黒鋼の方だ。
「なんで泣くんだ。雰囲気に流されたのは、俺だぞ」
黒鋼が言うも、ごめんねとファイは謝るばかり。
「……幻滅したでしょ」
「おまえがこんなことをするには理由があるんだろ」
黒鋼が言うと、ファイはぱちくり瞬きをした。
「……ねぇ、君はオレのそばにいてくれる?」
ファイの手が震えていた。
「……っ、ユゥイが、オレのせいで交通事故にあって、もう会えないのに。夢で、『悲しまないで』って言うの」
無理だよ、とファイは涙を零した。
「オレがわがままいうと、大切な人がいなくなるくらいなら、オレは消えた方がいい」
黙っていた黒鋼は、俯いていたファイの顔を上に向かせた。
「おまえが、自分の体を大切にしねぇと、そいつは悲しむぞ」
ファイの目からまた涙が零れ出る。こんな状況なのに、綺麗だと黒鋼は思った。
「……っ、」
零れ出る涙に、黒鋼はキスをする。
「俺はてめぇが好きだ」
「…え……?」
「おまえは?」
蒼い目がゆらゆらと不安の色で染まっていた。頬を紅く染まらせて、黒鋼を見ている。ファイに額にキスされた。
「……これが答えじゃだめ?」
ほんのりと更に赤く染まる白い身体。きゅうと内壁がしまったのは、わざとなのか、それとも。
「……煽ったのはてめぇだからな」
低く唸り、律動を黒鋼は開始する。
「あ、まっ…て!はげし……っ!!やっ…ぁ…!」
いいところにあたったのだろう。何度も甘い声をファイが上げる。
「……く…っ!」
想いをぶつけるようにして、黒鋼は最奥に精を放った。





◇◇◇◇◇

抜いて、ぐったりとしたファイの体を簡単にだが黒鋼は清める。今さら、部活には出れない。まぁ、いいかと黒鋼は思った。……というか告白する以前に体から先ってどうなんだと、己に反省をする。
「……ねぇ」
「あ?」
ファイが黒鋼を見上げた。
「今度どこか遊びに行こう?」
「おう」
黒鋼が言うと、ファイが幸せそうに笑む。
ファイの笑顔が見れるなら、幸せだ。金の髪を触ると、ふふっとファイが微笑んだ。

後日。景色のきれいなところで、黒鋼は再度告白のやり直しをするのだが、いつのまにか知世につたわり。「やりますわね。黒鋼」と、からかうネタにされたのは言うまでもない。




End.